グリーンブック

https://gaga.ne.jp/greenbook/

第91回アカデミー賞作品賞に輝いたグリーンブックがついに公開されました。正直とるとは思わなかったので驚きました。ROMAが強いと思ったんだけどなぁ(まだ観てない)。とはいえ日本人視点では公開すらまだされていない作品だったので判断材料は少ないですからね。ただトレーラーを見た感じ、SNSや批評サイトなんかを追っていた限りそこまで話題になっていなかったのでこのニュースを聞いた時は「そうくるか!」と。実際今作の受賞には若干(?)の波が立っているようで、ブラッククランズマンで同じくノミネートされていたスパイク・リー監督は脚色賞受賞の喜びようから打って変わって会場を飛び出す勢いで不満爆発してたようですね。笑

なぜ世間がこの受賞に関してここまで荒れているのか、そして肝心の映画の内容はどんなものだったのか。映画の日でもある3月1日、公開初日に見てきたので早速レビューしていきます。

あらすじ

舞台はジム・クロウ法が敷かれるアメリカ。カーネギーホールに1人贅沢品に囲まれて住む黒人ピアニスト、ドン・シャーリーは根強い差別の残る南部でのツアーを成功させるため、用心棒兼ドライバーとしてイタリア系白人のトニー・バレロンガを雇う。生活も価値観も全てが相反する2人はいくつものトラブルを乗り越えながらツアーを敢行していく。

誰が見ても楽しめる娯楽作品

まずタイトルの「グリーンブック」ですが、これは当時差別の根強いアメリカで黒人が安全に旅をするために発行されていたガイドブックの名前です。利用できるホテルやレストランなどが記載されていて不要なトラブルを避けられるというわけです。主人公2人はこのグリーンブックを使ってツアーをしていくわけですね。

https://publicdomain.nypl.org/greenbook-map/

前評判の荒れようからして少し不安であったのですが面白かったです。コメディ調のヒューマンドラマですね。ロマンティックコメディっていうのかな。昔からよくあるパターンのやつです。気持ちの良い物語の起伏に、2人の軽快な会話が楽しい。見終わった後にケンタッキーのフライドチキンを食べたくなることは必至。見に行かれる際は事前に最寄りのKFCをチェック。

フランスの大ヒット映画、「最強の2人」に似た雰囲気でした。裕福で教養もあるけど心に重荷を抱える雇い主と、粗暴で頭は弱いが快活な従業員。この関係性は王道ですね。誰もが気持ちよく見ていられる。もはやわざとらしさも感じますが実話ベースなので仕方がない笑。ヴィゴ演じるトニーの実の息子さんが映画化を目指して、数多くのエピソードを記録していたみたいですね。はたからみて身内が映画化出来る!と思ったんですから2人は相当仲が良かったんでしょうね。

白人にとって都合の良い映画?

しかしグリーンブックがなぜ批判されることになったのか。これは作品を見てもらえればわかることですが、良くも悪くもご都合主義に見えるんですよね。どこまで実話なのかはわかりませんが黒人を取り巻く差別というのはかなり壮絶でしたから、こういう風になんとなく良い話風にまとめられることに強い抵抗を覚える層がいるのは想像に難くないですね。ストーリー的に白人が黒人を救うという構造になり、監督も白人であることから白人のエゴとして捉えられたのかなと思います。

授賞式に登壇したスタッフたちの白人の多さにもモヤッとする人たちも多かったようです。昔からロックしかりヒップホップしかり黒人由来の文化の利益を搾取されるという感覚も結構ありますし(エルビスやエミネムの時みたいな)。強い反発を示したスパイク・リー監督も黒人がまだまだ活躍しにくいころから長年自身のルーツと向き合って真っ向勝負していたわけですから、彼の振る舞いに賛同する人も多いわけですね。正直観た後のわたしもこの作品が「作品賞」を獲るのには若干の疑問が残ります。

タイミングが悪かった良作

とはいえこの作品が人々に愛されることは間違いないと思います。批判の集まる物語の構造ですがこの映画は実話ベース。良い話すぎて胡散臭いの典型ですかね。全くのフィクションであるなら違うでしょうが今回の騒動はいささかオーバーだと思います。少し世間が敏感になりすぎているのは否めない気がしますね。グリーンブックは悪意のある作品でも大げさに白人を肯定する作品でもありません。主人公2人の関係性がとても光る作品です。

今思い返しても印象深いエピソードはいくつもあります。どれをとっても2人の関係性をよく表していて、それでいて可笑しい。ドンに叱られるトニー、トニーに「普通」のことを教えてもらうドンなどとても愛らしいです。2人のやりとりの中で互いに考えが変わっていきより良いものになっていきます。

ヴィゴ・モーテンセンはコワモテの役が多いですがこんなに明るく優しい演技も出来るんだなぁと驚きました。大きくふくらんだおなかもキュートでした笑。ヴィゴ・モーテンセンは顔が丸くならないみたいで、最初おなかが映った時「え!?」と思わず声が漏れました笑。

マハーシャラ・アリは相変わらず芸達者で改めてオンリーワンな俳優さん。所作の美しさや振る舞いから気品を感じられます。それでいて嫌味がない。彼の着こなす衣装もすごく洗練されていて目の保養です。この2人の最高の演技も相まって、とても愛に溢れる作品になっています。

珍しい組み合わせ

そしてこの時代設定の映画としては、教養があり裕福な黒人と移民の家系で貧しい暮しを強いられる白人という組み合わせは非常に興味深い。なんたってドン・シャーリーの住まいはカーネギーホールですからね笑。部屋には贅沢品が溢れかえっています。一見すれば白人であるトニーの方が辛い生活を味わっているように見えます。ジム・クロウ法下のアメリカでこの構図は極めて珍しいものだったと思います。

ドンはアレサ・フランクリンもリトル・リチャードも知らなければ、フライドチキンだって食べたことがありません。一般的な黒人のステレオタイプとは真逆の人間です。トニーは支配層とは言えませんが貧しくイタリア系の親戚たちと支え合って暮らしています。差別意識も根付いており2人の相性はいいとはいえません。

しかし時間とともに見えていた世界は非常に表層的なものに過ぎないということがわかります。こうなると「成功者」であるドン・シャーリーの豪華な部屋も寂しく映り、痛々しい。そしてトニー・バレロンガは今までの価値観に疑いを持ち始めます。

キャラクターが浮き彫りにする現代に通じる問題

トニーのキャラクターはいわゆる「普通の人」を表しています。悪意のある人間ではないが、物事を深く考えず、時に少数派の人を無意識に傷つける。これは現代社会においてもよく見られる点ですよね。多くの差別は無知に起因していてトニーもその1人であり、マジョリティーなのです。

この「普通」なトニーが、「普通」でないドンと出会えたことは大きな幸運ですよね。もしこの出会いがなければ多くの人間と同じように、無意識のうちに差別を繰り返していたことは想像に難くありません。

そして興味深いのが被差別者であるドンも、差別意識のあったトニーに救われているという点です。この関係性こそがグリーンブックの良さだなぁと強く思います。

何度でも見返したくなる暖かい映画

グリーンブックは少し浅い印象も受けますが、気負わずに楽しめる優秀な娯楽作品です。差別など難しい問題を扱いながらもトニーとドンのやりとりに大いに笑っていられます。なんだか元気がないといったときでもこの映画を見れば腹から笑えてくるんじゃないでしょうか。どんな世代の人と見ても安心して楽しめる大衆的な映画です。ぜひ劇場でみてケンタッキーを食べて帰ってほしいと思います笑。

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